カプセルトイ市場が拡大を続けるなか、「中身が分からないから売れる」という感覚的な理解はもう古い、と私たちは考えています。2025年7月に発表された伊藤ら(法政大学経営学部)の研究は、ガチャ・くじ引きといった「不確実マーケティング」を消費者心理から実証的に分析した、市場関係者必読の一本です。本稿では同論文の発見を整理しつつ、CapsuleHub がカプセルトイ市場で実装している「偶然を、構造で再設計する」という考え方を、3つの発見に紐づけて共有します。
1. ガチャの最大のハードル:「異なるランクの壁」
伊藤ら(2025)は、過去研究(Buechel & Li, 2023)を出発点に、次のように整理しています。
リスト内の全商品が「同ランク」(同じ商品の味違い・色違いなど)の場合、消費者は「中身が分からないランダム商品」を好んで選ぶ。一方、リスト内の商品が「異なるランク」(プレミアム/スタンダード/リーズナブル等)の場合、消費者はランダム商品を避ける。
これは、当社がカプセルトイの企画現場で日常的に感じてきたことでもあります。同価格・同価値のカラーバリエーション物(同ランク)は気軽に回されるが、ハイ&ローの当たり外れが大きい確変的ラインナップ(異なるランク)は、消費者が二の足を踏む。
そこで伊藤らは問いを立てます。「異なるランクでも、ランダム商品の選択意向を高める販売手法は存在するのか?」結論は Yes、その要因は2つ。希少性メッセージと結果の不確実性を楽しませる要素です。
2. 発見①:「数量限定」「期間限定」は、ランダム選択をブーストする
Study 1 では、3ランク × 3フレーバーの9種類アイスクリームをランダムに販売するシナリオを提示し、希少性メッセージあり/なしで選択意向を比較しました。
- 数量限定の表示あり → 選択意向 M=3.71(vs. なし 3.50、p<.01)
- 期間限定の表示あり → 選択意向 M=3.74(vs. なし 3.50、p<.01)
両条件で有意差が確認されました。理論的には「最低ランクが当たるかも」というリスクより、「この機会を逃すと買えない」という損失回避が上回ったと解釈されています。
CapsuleHub の現場視点
カプセルトイは、もともと小売店頭・コラボイベント・期間限定POP-UPなど、希少性メッセージと相性が良い販路に置かれてきました。が、私たちの観察では「希少性 × ハイ&ロー景品」の組み合わせを意図的に設計しているIP・店舗はまだ少数派です。当社の推奨設計は次の3つ。
- 会期/設置場所そのものを「期間限定」化する — POP-UP・ライブ会場・スタジアム等で Capsule Dock を期間限定設置。来場者の「いま回さないと損」という心理を、可視化された筐体で増幅させる。
- SKUの「数量限定」訴求を、面板に物理表示する — Capsule Craft でカプセル中身をODM製造する際、「全国200個限定」などの希少性訴求を物理パッケージとリンクさせる。
- 在庫の枯れ具合を、消費者向けにも可視化する — Capsule Base の在庫データを残数表示として店頭/オンラインに転用。学術知見と運用データを直結させる仕掛けです。
3. 発見②:「サイコロを振る」が、選択意向を1ランク押し上げる
Study 2 では、店員が黙ってランダムに渡す方式(楽しさなし) vs. 消費者自身がサイコロを2個振って商品が決まる方式(楽しさあり)を比較しました。
- 楽しませる要素 あり → 選択意向 M=3.76
- 楽しませる要素 なし → 選択意向 M=2.75
- 効果量 r=0.46、p<.001(中程度〜大)
統計的にも実務的にも、希少性メッセージより効果量がはるかに大きい点が重要です。「結果が定まっていない期待」がポジティブな感情を生み、意思決定を促すことは、Abuhamdeh ら(2015)・Lee & Qiu(2009)など複数の先行研究でも示されています。
CapsuleHub の現場視点:「やりたくてもできない構造」を解く
ガチャという装置は、それ自体が「結果の不確実性を楽しませる要素」を内蔵したハードウェアです。論文で検証された「サイコロを振る」体験と、カプセルトイで「ハンドルを回してカプセルが落ちてくる」体験は、心理的にはほぼ同じ作用をしている、と私たちは捉えています。
問題は、その装置の前まで来ているのに、回したくても回せない消費者が大量に発生していることです。
「やりたくてもできない構造」の正体
ガチャの前で立ち止まり、面板を見て心が動く。けれど財布に小銭がない、両替機が遠い、PayPay には対応していない。結局その人は写真だけ撮って通り過ぎる──これは私たちが現場で日常的に目にする光景です。
業界では、現金のみのガチャ運営はこの理由だけで約3人に1人を取りこぼしていると言われます。Study 2 が示した「楽しませる要素は選択意向を 2.75 → 3.76 にまで押し上げる」効果は、そもそも装置の前で決済できる人にしか発生しません。楽しさの効果量がどれだけ大きくても、決済の入口で離脱されてしまえばゼロです。
Capsule Dock を電子決済前提で再設計した理由
Capsule Dock は、PayPay・楽天ペイ・d払い・au PAY・メルペイ・WeChat Pay・Alipay などを含む21決済以上に対応した、キャッシュレス前提のガチャ筐体です。「子供のお小遣いで回す装置」から、「大人がスマホひとつで遊べるブランド体験装置」へとガチャを再定義しました。電子決済前提だからこそ解ける構造が、特に3つあります。
- インバウンド需要を取りこぼさない — WeChat Pay・Alipay 等の海外QR決済に対応することで、日本円の現金を持たない訪日客が即時参加可能に。
- 滞在時間の短いイベント・ライブ会場で機会損失を防ぐ — 来場者は両替の列に並ぶ選択をしないため、現金運用ではほぼ捨てていた回転数を取りに行ける。
- 高単価帯(500〜2,000円)を成立させる — 100円玉数枚では物理的にきつい単価帯では、現金運用そのものが破綻する。キャッシュレス前提だからこそ、高単価のIPコラボや大人向けプレミアム商材を実装できる。
実証データ:ビジネスイベントでも、ガチャは回る
2026年4月に出展した令和の虎エキスポ(ALAWAY Inc.様)は、来場者がスーツ姿のビジネスパーソンという、通常ガチャがほぼ存在しない文脈でした。それでも7時間のスポット出展でリード249件・ROI 11.4倍という結果が出ています。スーツの来場者が「ガチャのために財布から小銭を出す」行動は現実的にほぼ期待できません。けれどスマホ決済を前提に置いた瞬間、「気になる → 回す」という導線が成立しました。これは装置の力ではなく、決済の構造を変えた効果です。
4. 発見③:「期間限定 × ワクワク」は弱まる ― 制約の組み合わせ方が鍵
Study 3 では、希少性メッセージと楽しませる要素を組み合わせた2×2の二元配置分散分析。1,056人の大規模実験です。
- 数量制約 × 楽しさ → 交互作用なし(H4 棄却)
- 時間制約 × 楽しさ → 交互作用がマージナルに支持(H5 支持)
つまり、「期間限定」の切迫感は「サイコロを振る楽しさ」が同居すると相殺される傾向が示されました。論文の解釈は明快です。
- 数量制約は「いつ在庫切れか分からない」予測不能性を含むため、楽しさで中和されにくい
- 時間制約は「その時間内なら確実に買える」予測可能性を持つため、楽しさが追加されると切迫感が緩む
CapsuleHub の現場視点:訴求軸の使い分け
現場で長らく感覚的に語られてきた「期間限定だけだと飛びつかれない/むしろ"ここで体験できる楽しさ"を打ち出した方が反応が良い」という肌感覚を、定量的に裏付ける結果です。実務的には、施策の組み合わせは「足し算」ではなく、目的に応じた使い分けが前提になります。希少性で押すならまず「数量限定 × ガチャ体験」を主軸に。時間で押すなら楽しさ要素を控えめにし「いつまで」を最大訴求。ロイヤルティ獲得を狙うなら楽しさ要素を最大化し、長期効果をデータで観察する。
5. CapsuleHub的フレームワーク:偶然を、構造で再設計する
私たちは、上記のような学術知見と、現場で蓄積した運用データを統合して、4つのサービスを提供しています。
- Capsule Craft(ODM) — 中身そのものを設計する。同ランク/異なるランクの構成、希少性メッセージの面板印字までワンストップで(Study 1の物理実装)
- Capsule Dock(イベント筐体レンタル) — 「楽しませる要素」を最大化するハードウェア。キャッシュレス決済も統合済み(Study 2の最大化)
- Capsule Link(既存筐体のIoT後付け/特許取得済) — 既存資産にデジタル決済を後付け。売上・在庫データの可視化と遠隔運用に対応(現在 PoC 実施企業を募集中)
- Capsule Base(市場データ基盤+情報メディア) — 月間20万PVを超えるカプセルトイ情報メディアであり、データ基盤でもある(長期効果の実証基盤)
伊藤ら(2025)が「今後の研究課題」として挙げる長期的影響の評価(ランダム商品体験がブランドロイヤリティ・リピート率にどう効くか)は、私たちが市場側で先行して取り組むべきテーマでもあります。
特に Capsule Base は、月間20万PV を超えるカプセルトイ情報メディアへと成長し、確実にカプセルトイユーザーとの接点になりつつあります。ユーザーの検索行動・エリア別関心・人気SKUといった一次データの取得もすでに始まっており、Study 1 で示された「希少性メッセージ × 異なるランクのランダム商品」の組み合わせが、長期的にブランドロイヤリティやリピート率にどう効くのか──伊藤らが今後の研究課題として挙げた論点に、市場側からデータで答えていく土台が整い始めています。
学術が「短期的な選択意向」を解明するなら、私たちは現場で「長期的な行動データ」を蓄積し続ける。両者を統合してこそ、不確実マーケティングの設計論は完成に近づくはずです。
6. まとめ ── 「中身が分からない」だけでは、もう売れない
カプセルトイの強さは、ランダム性だけではありません。希少性 × 楽しさ × データの三層が組み合わさったとき、不確実マーケティングは「異なるランク」という従来の壁を越えて、消費者の選択意向を構造的に押し上げます。
ガチャは、もはや「子どもの偶発的な購買行動」を捉える装置ではありません。経営判断のためのマーケティングインフラとして、再設計可能な領域になっています。私たちはその再設計を、ハードウェア・データ・製造の統合で実装していきます。
参考文献
伊藤璃音・浦久保智萌・松田竜弥・石川惠美・佐藤天(2025)「不確実マーケティングに関する新しい視座 ── 希少性メッセージと結果の不確実性を楽しませる要素が選択意向に与える影響 ──」『マーケティングレビュー』 Vol.6, No.2, pp.75–81. DOI: 10.7222/marketingreview.2025.012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketingreview/6/2/6_2025.012/_html/-char/ja
※本論文は CC BY-NC-ND 4.0 ライセンスで公開されています