スタジアムのガチャは、稼働時間が商業施設の50分の1。それでも僕らがスタジアムを選ぶ理由
数字だけ見れば、スタジアムは「割に合わない」
商業施設に筐体を1台置くと、営業時間を11時間として年間およそ4,000時間、その筐体は客の前に立ち続けます。
スタジアムはどうか。ホームゲームは年間十数試合から20試合前後。1試合の販売時間を長めに見積もっても、掛け合わせて年間100時間に届きません。同じ筐体、同じ原価、同じ運用体制で、客の前に立つ時間が50分の1です。
「1台あたりの年間売上」で意思決定していたら、スタジアムという選択肢は検討の最初に消えます。実際、社内で最初に出たのもその話でした。
それでも、私たちはスタジアムを選びました。
クラブには「財布」が3つある
Jリーグが公開している2024年度のクラブ経営情報を見ると、J1・20クラブの収入構造ははっきりしています。
| 収入区分 | J1合計 | 1クラブ平均 |
|---|---|---|
| スポンサー収入 | 489億円 | 24.5億円 |
| 入場料収入 | 217億円 | 10.9億円 |
| 物販収入 | 119億円 | 5.9億円 |
出典:Jリーグ「2024年度 クラブ経営情報開示資料」より作成
スタジアムに何かを置く提案の多くは、このうち一番下の5.9億円に向けて行われます。物販はスポンサー収入の4分の1以下しかありませんから、クラブの中で最も小さい財布に向かって話していることになります。
私たちが見ているのは、そこだけではありません。
中身は、毎試合でも作り替えられます。そして「試合の日にはあれがある」が定着すれば、会場に足を運ぶ理由が1つ増える。物販の売上として計上される数百円の裏側で動いているのは、その日その場に来てもらうことそのものです。
一番小さい財布の中だけで話を完結させない。ここから先の設計が、私たちの仕事です。
置いてみるまで、答えのない問いがありました
とはいえ、理屈をどれだけ並べても、実際に置いて数字を取らなければ意味がありません。私たちが確かめたかったのは、次のようなことでした。
- Qスタジアムに来た人は、1日のどの瞬間に財布を開くのか
- Qその日の勝敗は、売上を左右するのか
- Qスタジアムという場所で、単価はどこまで受け入れられるのか
- Q1つの会場に、何台まで置いても飽和しないのか
- Q設置する場所によって、売れ方はどれだけ変わるのか
どれも、一般論では答えが出ません。スタジアム物販の教科書があるわけでもありません。だから、置いて、全部の決済を記録して、あとから読み解くことにしました。
2026年8月15日、ノエビアスタジアム神戸

明治安田J1リーグ第2節・ヴィッセル神戸 vs FC東京。ノエビアスタジアム神戸に、Capsule Dockを3台設置しました。景品はヴィッセル神戸のオリジナルメタルキーチェーン。試合は2-2の引き分けでした。取り組みの概要はこちらのニュースに書いています。
結論から言うと、私たちの想定は外れました。しかも、悪いほうにではありません。

まず、販売できる時間そのものが、見積もりより長かった。冒頭で「年間100時間に届かない」と書きましたが、あの計算は控えめすぎました。稼働時間が50分の1という前提自体が、実は悲観的すぎたわけです。
そして売上の山は、私たちが予想していた時間帯にはありませんでした。ハーフタイムに行列が分散する——そう考えて設計していたのですが、実際にはまったく別の時間に、はっきりとした山が2つできました。
勝敗についても発見がありました。この日は2-2の引き分け。勝ちも負けもしない、感情がいちばん動きにくい結果です。それでも人は足を止めました。「記念に一つ」という動機は、その日のスコアとは別のところで働いているようです。

単価についても、事前の想定は保守的すぎました。今回は2種類の価格帯を用意しましたが、高いほうを選ぶ人が、思っていたよりずっと多かった。「スタジアムだから安いものを」ではないということです。
台数についても答えが出ました。3台の売れ方を比べると、まだ増やせる余地があることがはっきりわかります。

数字は、ここには書きません
どの時間帯に山が来るのか。何台までなら飽和しないのか。単価はどこまで受け入れられるのか。設置場所でどれだけ差がつくのか。答えは、私たちの中に残りました。
ただ、それをこの記事に一般論として並べても、たぶん役に立ちません。試合数も、客層も、コンコースの構造も、会場によってまったく違うからです。同じ条件が、ある会場では追い風に、別の会場では的外れになります。
私たちが持ち帰ったのは「スタジアムではこう売れる」という一般解ではなく、次の会場をどう設計するかの判断材料です。ここで得たことは、次にご一緒する会場の設計に使います。
稼働時間では、やはり商業施設に敵いません。けれど、その短い時間の「密度」は、こちらのほうが圧倒的に高い。
私たちが会場に置いているのは、ガチャガチャではありません。無人の小さな売店です。売店は、1日の売上で評価するものではなく、そこに在り続けることで評価されるものだと思っています。
出典
- ・Jリーグ「2024年度 クラブ経営情報開示資料」
- ・一般社団法人日本カプセルトイ協会「令和7年度(2025年)カプセルトイ市場動向調査」(市場規模1,960億円、前年比39%増)