2026年4月、株式会社Hamaru Strategyによる「ランダムグッズに関する消費者意見アンケート 2026」の中間報告が話題になった。のべ35,866件の回答のうち、ランダムグッズに対して「嫌い/非常に嫌い」と答えた人が89.9%にのぼる、というインパクトのある数字だ。
BANDAI SPIRITSが先行調査で打ち出していた「何が出るかわからないドキドキ感/ワクワク感」とは、ほぼ真逆の結果。SNS上で「現実と乖離している」と指摘された声を裏付ける形となった。
カプセルトイ/ガチャの領域に向き合うCapsuleHubとしても、この数字は真剣に受け止めている。ただ同時に、この結果をそのまま「ランダム=悪」という単純な話に縮めてしまうと、カプセルトイというエンタメの核が見えなくなる。ここは一度立ち止まって、丁寧に整理しておきたい。
結論を先に言うと、今回の"嫌い9割"は「狙い撃ち型のランダムグッズ」の話であって、「何が出るかわからないこと自体を楽しむカプセルトイ」の話ではない、ということだ。
9割の「嫌い」は、"欲しいものが決まっている人"の声
調査結果のうち、嫌悪感の理由として圧倒的に多かったのは次の2つだ。
- 欲しいものが手に入らない可能性がある:98.5%
- 通常販売よりお金がかかる:91.6%
そして欲しいものが手に入らなかった経験は94.8%、定価以上の転売品を購入した経験は63.3%。ここで重要なのは、これらの質問すべてが「欲しいものが明確に決まっている」ことを前提にしている、という点だ。
推し活の文脈で流通するランダムグッズは、ほとんどが自分の"推し"を当てるためのものである。好きなメンバー、好きなキャラ、好きな組み合わせ――ピンポイントで狙っているモノがあり、それが当たるか外れるかを賭ける構造になっている。
この構造で考えると、ランダム性は"楽しみ"ではなく"障壁"として働く。狙っている1枚のために10個買わされ、コンプは困難、二次流通で定価以上を払う――その実感が、9割の"嫌い"を形づくっている。これはその通りで、業界として正面から受け止めるべき声だ。
事実、同調査で消費者の89.7%が「単価は上がるが、選んで買える」販売形式を支持している。言い換えると、目的がハッキリしているものは選ばせてほしい、というきわめてまっとうな要望だ。
それでも、カプセルトイ本来の楽しさは"狙い撃ち"の外側にある
ここから先が、この記事で書きたかったことだ。
街角でふとカプセルトイの筐体の前に立つとき、多くの人は「絶対にコレを当てたい」という強い目的を持っていない。ラインナップを眺めて、「どれが出てもまあ楽しそうだな」と思える全体感があるから、財布から100円玉を出す気になる。
ここでのランダム性は、障壁ではなく"意思決定の肩代わり"として機能している。
- 全部好きだから、どれが出ても正解
- 自分で選ばなくていい気楽さ
- 何が出てくるかわからない数秒間のワクワク
結果だけがほしいなら、フリマアプリで単品を買うのが合理的だ。それでも、わざわざカプセル筐体の前に立つ人がいる。理由はシンプルで、ハンドルを回して、カプセルが転がり出てきて、両手で開ける──その数十秒間のプロセスそのものが娯楽になっているからだ。
買ったのではなく、出てきた。この感覚は、普通の買い物では味わえない。
データが示す、"狙い撃ち型ではない"消費者の行動
この「出会い型のガチャの楽しまれ方」は、感覚論だけで言っているわけではない。
CapsuleHubが運営する、ガチャ専門店の店舗情報ポータル「Capsule Base」は、現在月間 約80,000 PVの規模で使われている。興味深いのは、そこへ流入してくる検索クエリの上位が、ほぼ例外なく次のような形をしていることだ。
| クエリ | クリック数 | CTR | 平均掲載順位 |
|---|---|---|---|
| 西宮ガーデンズ ガチャガチャ | 249 | 27.1% | 2.2 |
| 品川駅 ガチャガチャ | 165 | 28.6% | 2.0 |
| 三軒茶屋 ガチャガチャ | 154 | 53.5% | 1.8 |
| アリオ橋本 ガチャガチャ | 139 | 49.8% | 1.7 |
| コルトン ガチャガチャ | 130 | 48.1% | 1.5 |
| 中央林間 ガチャガチャ | 118 | 74.2% | 1.2 |
| 赤羽 ガチャガチャ | 97 | 13.8% | 4.4 |
| アリオ西新井 ガチャガチャ | 91 | 71.1% | 1.1 |
※ Capsule Base / Google Search Console 実データ(上位クエリ抜粋)
上位はきれいに「地名 × ガチャガチャ」の組み合わせで占められている。「このキャラのあのシリーズがほしい」という商品名での指名検索ではなく、「近所・通り道・お出かけ先で、ガチャが並んでいる場所はどこか」を探す検索なのだ。
言い換えると、ユーザーの行動はこういう順番で設計されている。
- エリアを決めて、専門店を探しに行く
- 店に着いて、並んだ筐体のラインナップに出会う
- 気に入った台の前で、ハンドルを回す
- 何が出るかわからない数秒を味わう
この流れのどこにも、「特定アイテムをピンポイントで狙う」フェーズは入っていない。どんなお店と出会えるか/どんなラインナップと出会えるか/そこから何が出るか、そのすべてがセレンディピティ(偶然の発見)として設計されている。
ここではランダム性は障壁ではなく、"発見の快感"の源泉そのものだ。月8万PVという規模感は、この楽しみ方がすでに"ごく普通の生活行動"として成立している証左でもある。
"神様の言うとおり"という、日本人の感覚
ここに、もう一段深いレイヤーがある。
おみくじを引く。初詣で運勢を占う。七夕の短冊を結ぶ。福袋に並ぶ。年末のジャンボを買う。どれも「結果を自分で選ばず、何か大きな流れに委ねる」という構造を持っている。そして日本人は、この"委ねてしまう時間"そのものをずっと娯楽として楽しんできた。
神様の言うとおり。子どもの頃、指差しで順番を決めるときに口ずさんだあのフレーズには、「結果は自分のコントロール外、だからこそ笑って受け入れる」という、一種の覚悟のような気軽さがある。
カプセルトイを回す数秒間は、この感覚の現代版だ。ハンドル一回分の、小さな儀式。出てきたものが狙いから少し外れても「まあ、神様の言うとおりだしな」と受け入れられる。その受け入れかたまで含めて、ぜんぶ遊びになっている。
海外のお客様が「なぜ欲しいものを直接買わないのか」と面食らう場面は少なくないが、その溝の向こう側にあるのは、たぶんこの文化的な感覚の差である。
先ほどの「地名 × ガチャガチャ」検索の膨大なボリュームは、日本の街に、この"小さな神様の言うとおり"がふつうに埋め込まれている、という景色そのものだと思う。
業界としての受け止めかた:「狙い撃ちの代替」ではなく、「出会いの設計」
以上を踏まえると、今回のアンケート結果の読み解きはこう整理できる。
ガチャというメカニズム全体が否定されたわけではない。否定されたのは、"狙い撃ち型のランダム運用"が、消費者との間で起こしているミスマッチである。
この整理ができると、業界がすべきことも見えてくる。
"欲しいものが決まっている領域"では、消費者の声に従って選べる販売形式を取り入れていく。二次流通前提の供給設計を見直す。コンプ難度と価格を適正化する。ここは、素直に改善していくべきところだ。
一方で、"何が出るかわからないこと自体をエンタメとして設計できる領域"は確実に存在するし、Capsule Baseの検索データが示すとおり、むしろそちらのほうが日常の消費行動としては圧倒的に大きい。そこでは、
- ピンポイントの"当て物"ではなく、「どれが出ても楽しい全体感」を設計する
- お店・ラインナップ・中身のすべてを、セレンディピティの連鎖として組み立てる
- ハンドルを回してから開封するまでの数秒を、ちゃんと"娯楽の時間"として味わえる体験にする
- ランダム性を"運試しの作法"として受け取れる文脈に寄せる
という設計がうまく効く。企業ノベルティのガチャ化、ブランド体験としてのカプセル施策、IPの世界観を広げる小ロットODM、そして店舗情報プラットフォームとしてのCapsule Base――CapsuleHubがやっていることは、最終的にはぜんぶここの設計に収束する。
「嫌い9割」の記事は、業界にとって耳の痛い警鐘であり、真摯に向き合うべき一次情報だ。同時に、ランダム=すべて悪、ではないという一線を手放さないことが、カプセルトイというエンタメを次の時代に残していくために、いちばん大事なことだと思っている。
ハンドルを回す数秒間を、ちゃんと楽しい時間として設計する。神様の言うとおり、でいいじゃない。そう思える文脈を、私たちは真面目につくっていきたい。